曲論直論

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ざっくり分析)低投票率の原因は小選挙区制? 国民のニーズに応えるため、比例代表制の拡充を

公示日を迎えた衆院選 投票率はどうなる

投票率が低迷する国政選挙 原因は小選挙区制?

15日、3年ぶりの衆院選公示日を迎えた。すでに各地で選挙戦が展開されているが、今回の選挙は国民の注目をどれほど集めるだろうか。朝日新聞は、社説で「死票が多くなる小選挙区制の特性に加え、低投票率が組織票に勝る自公に有利に働いているのだろう。」(朝日新聞 社説 10/16)と警戒する。
また、直近の衆院選において、自民党小選挙区の得票総数が26%程度に過ぎないながら、56%の議席を獲得したことに触れ、以下のように指摘している。
「このような低投票率は、民意の反映をゆがませる懸念の方が大きいのではないか。」(同 朝日新聞 10/16)
自公批判は捨て置くとして、選挙制度におけるこのような見方には同意する。以前、弊ブログにおいても、低投票率が政治家の「利益団体」依存を生む構造を指摘した。
kyokuron-chokuron.hatenablog.com
上記記事では、年収や社会的地位が低いと自認する人達が、政治的無力感を感じ、投票に行かなくなる可能性を指摘し、これが負のスパイラルのように広がる状態を示した。だが、なぜ政治的無力感を感じるかについては、やや物足りない説明にとどまった気もする。
その後、この原因の一つとして、小選挙区制度があるのではないかという考えに至った。

投票率選挙制度の関係性は

投票率の推移について、NHKはこう総括している。
「戦後長らく70%前後で推移していましたが、平成8年に小選挙区比例代表並立制が導入されたあとは低下傾向にあります。(中略)ただ、前回までの4回の選挙はいずれも60%を下回っています。」(NHK「深掘り!投票率」10/9 https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/2024/turnout/

同記事にあるグラフでも、たしかに平成8年以降は概ね投票率は低下傾向だ。しかし、選挙制度投票率に関連性はあるのか。
衆議院調査局の論文(「選挙制度等が若年者の投票行動に与える影響について」(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/shiryo/2022ron19-07.pdf/$File/2022ron19-07.pdf))を見ると、蒲島郁夫ら(「政治参加論」 東京大学出版会)を引用して、「『先進民主主義諸国を対象とした研究では、比例代表制、あるいはより比例性の高い選挙制度を採用している国において高投票率がみられるとする分析が多』いとされている。」としており、その理由として、「比例代表制では、有権者が自分の投票の影響力を相対的に高く評価する」という風に引かれている(蛇足だが、引用の引用は「孫引き」といって、学術論文ではタブーはやり方。学生の方はマネしないように)。
この蒲島らの主張は、まさに弊ブログで紹介したNIRA総合開発研究機構の調査結果および弊ブログの「政治的無力感を感じ、投票に行かなくなる可能性」という指摘と合致する。やはり、小選挙区制における弊害(=死票が多いこと)が、低投票率を生んでいる証左だろう。

小選挙区比例代表のメリット・デメリット比較

ここまで、投票率の観点のみで、小選挙区制の弊害と比例代表制の利点を述べたが、その他の点はどうだろうか。二流大学生よろしく、wikipediaから両者の長所・短所を見ていこう。

ここで、小選挙区制のメリットを見てみると、日本ではほとんど発揮できていないことがわかる。安定政権を謳いながら、2007年のねじれ国会、そして2009年と2012年の政権交代があった。二大政党制も確立していない。一方、デメリットのAとBは、冒頭の朝日の引用でも指摘があった通り、しっかり現れている。

比例代表制の方はどうか。日本では、「衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員」(総務省HP)だそうだ。比例は約38%に過ぎないので、メリットの部分ははっきりとは出てこない。しかし、③については、近年の野党の多党化に表れつつあるのではないか。
デメリットはどうか。aについては、これまた懲りずにwikiを見てみると(「55年体制」のページ)、自民党衆院選で概ね3割以上の得票を得ているようだ。一時、完全比例代表制を導入した結果、多党制の弊害が主張されたイタリアでは、第1党でも25%の得票のようだから、日本で比例代表を拡充しても、イタリアのようにはならないだろう。c~eについては、すでに比例代表制を一部導入済みであり、これまで大きな弊害は認められていない。無視してかまわないだろう。

こうしてみると、小選挙区はメリットとされる点がほとんど発揮できていないのに対し、デメリットばかりが表れている。他方、比例代表制は、小選挙区制の持つ問題を解消でき、デメリットも小さいとみられる。ただし、完全比例代表制(議員のすべてを比例で選ぶこと)にするのは、イタリアで完全比例から小選挙区制の一部導入に切り替えた例(2017年)を見ると、現実的ではないだろう。

このため、現行で小選挙区62%、比例38%となっている議席配分を、比例>小選挙区という具合に変えた、比例メインの並立制にしてはどうか。現に、ドイツでは比例代表制メインで小選挙区制を一部導入しており、投票率も7割台と高い。ドイツの例にならうべきだ。

現代日本には比例代表制の方がなじむ

日本では、行政ニーズの多様化が叫ばれて久しい。行政の現場でも、これら多様なニーズに応えられるよう、試行錯誤が続いている(第1章 行政の変容と人事制度の改革|東京都の人事)。
国政の場でも、2019年の参院選では、れいわ新選組や、いわゆるN国党が初議席を得て、注目を浴びた。”れいわ”や”N国”は、どちらかというとワンフレーズを唱える政党であり、あらゆる国政を包括する既成政党とは一線を画す。しかし、これらワンフレーズ政党の出現は、まさしく国民のニーズの多様化を示すものだろう。今回の衆院選では、”れいわ”だけでなく、参政党、そして新たに日本保守党も候補を出している。多党化はすでにトレンドだ。

既成政党だけでは、多様化した国民のニーズに応えきれないだろう。比例代表制を拡充すれば、死票が大きく減り、投票率低下の一因である、政治への無力感も小さくなるだろう。これまで泡沫候補とされた、先述の群小政党も議席を得て、国政で影響力を行使するだろう。自民・立憲は、仮に第一党になったとしても、少ない得票では多数の議席を得ることができなくなり、連立を余儀なくされるだろう。しかし、その連立こそが、国民のニーズにきめ細かく応える新たな政権を生み出すのではなかろうか。

与野党関係なく、ぜひ比例代表制の拡充を検討してほしいし、メディアも、右派左派で選挙結果ばかりにこだわらず、国民目線で、選挙制度改革をしっかり訴えてほしいものだ。